2020年をオンライン実験とともに振り返る

はじめに

この記事はOnline Psychological Experiment Advent Calenderの24日目です。今年は,オンライン実験にこれまでの数倍〜数十倍の注目が集まった年でした。元々,ここ数年で徐々にオンライン実験は増えてきたのですが,コロナウイルスの流行に伴い実験室実験の実施が困難になったことで,オンライン実験を行わざるを得ない事態となった方も多かったのでしょう。小林も今年1年は,オンライン実験漬けの1年でした。せっかくなので,2020年で作成したオンライン実験関係の資料などを簡単なコメントとともにここにまとめたいと思います。そして,記事の最後で,(まだ1週間残っていますが)2020年を振り返りたいと思います。

シンポジウム・セミナーでの発表資料

日本認知心理学会研究法研究部会での発表資料

2020年8月に日本認知心理学会研究法研究部会の特別企画にお声がけいただき、そこで発表した資料の一部です。オンライン実験の作成法というよりは,オンライン実験の流れ,問題点,解決策などを紹介しています。

第39回日本基礎心理学会シンポジウム

第39回日本基礎心理学会シンポジウムの発表資料です。lab.js Builderでオンライン実験の作成について焦点を当てています。実験作成からOpen labでオンライン実験を実施するまでのやり方を紹介しています。この通りに進めていただければ,オンライン実験作成と実施を試せるのではないかと思います(2021年3月まではlab.jsチュートリアルに動画も公開しています)。

第39回日本基礎心理学会シンポジウム発表資料 from Masanori Kobayashi

lab.jsチュートリアル

lab.jsでの実験の作成方法をまとめたサイトです。オンライン実験化についても説明しています。元々はオンライン授業用の資料として作成したものです。オンライン授業になってしまい,プログラミングなどを教えていたところをどうしようかと思いましたが,たまたま1月くらいからjsPsych,lab.jsに手をつけはじめたところだったのが渡りに船でした。lab.js Builderで実験・調査を作成するというオンライン授業を無事に実施できました。必要な機能を盛り込んだテンプレートも作成してあるので,それを使ってもらえれば,学生さん自身に簡単なプログラムを作成してもらえます。その場合,教員は作成してもらったプログラムの修正とオンライン化をメインに進めることになります(さすがにScriptsを使うような複雑なものはこちらで作成していますが)。実際に,今年の卒論の1つで,調査と実験を組み合わせた研究では,調査部分を作ってもらい,実験部分を僕が作るという感じでした。

最近は,授業の枠を超えた内容も増えてきました。特に今は具体的な作成方法の説明よりは,少し複雑な課題の実験プログラム(Brief IATなど)の配布を中心にしています。

JapaneseTextInputForLab.js/jsPsych

lab.jsとjsPsychでIMEを介さずに平仮名または片仮名をキーボード入力するためのプラグインです。IMEを介さないため,IMEが備える推測変換機能の影響を受けずに再生テストをオンライン実験で実施できます。オンライン実験をはじめた頃から,推測変換機能のせいで再生テストが行うことができないことに困っていました。このプラグインの開発によって数年来の悩みを解決することができました。タイピング練習ソフトを参考に作ってみたら,意外と簡単にできてよかったです。より発展させた漢字変換についても,かなを漢字に変換するAPI(https://developer.yahoo.co.jp/webapi/jlp/jim/v1/conversion.htmlとかhttps://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/396586.html)を利用すればできそうではあります。ただ,ここまでやる予定はいまのところはありません。

論文

再生テストに基づく記憶現象のオンライン実験による再現

先ほど紹介したJapaneseTextInputForLab.js/jsPsychを開発したものの,実際の実験で使えないと意味がないので,その検証をやってみたという論文です。虚記憶と検索誘導性忘却という再生テスト(自由再生,手がかり再生)を用いる記憶現象をプラグインを使ったオンライン実験で再現できるかを調べることで,プラグインの研究上での利用可能性を確かめてみました。結果的には両現象ともに再現できました。それぞれ,lab.js,jsPsychを使い分け,サンプルも大学生,クラウドワーカーと多様な集団を対象としていたので,ある程度は一般性もありそうです。虚記憶や検索誘導性忘却を選んだのは,自分の手元に刺激やデータがあったのと,これまで行われた本邦のオンライン実験検証研究では取り上げられていない現象・効果だったためです。検索誘導性忘却はマニアックですが,虚記憶はメジャーなので,実験実習などで利用していただきやすいかもしれませんね。心理学研究で速報性を重視したコロナウイルス特集を組んでいただけたため,そこに投稿することで迅速に成果を公表できました(特集号の募集はまだ受付中のようなので,いまからオンライン実験しても間に合うのでは?)。

GUI ベースの web 実験作成ツール(lab.js)の紹介と実践

大杉尚之先生と共著でlab.jsのレビューをプレプリントサーバーに公開しました。lab.js Builderの利点だけでなくオンライン実験についても触れています。プレプリントなので査読は受けていないので,その点はご注意下さい。結果的にPsyArxivで公開しましたが,この原稿については多くの方に早く読んでいただきたいという気持ちと投稿したい気持ちが両方あり,色々とご面倒をおかけしました(関係者の方々には御礼とお詫びを申し上げます)。

2020年を振り返って

授業資料兼オンラインメモとしてはじめたlab.jsチュートリアルがこんなにも注目されるとはまったく予想していませんでした。今年は,学会や研究会でオンライン実験に関するトークをさせていただく機会も多くいただけました。自分自身でもオンライン実験を本格的に実施するため,かねてからの懸念であった記憶研究をオンラインで実施する際の推測変換機能の問題を解決する日本語入力プラグインを開発し,その検証結果を論文として採択いただけたのは嬉しかったですね。オンライン実験は対面実験ができないから仕方なく行う代替手段として見られることもあるようですが,今後はオンライン実験は一般的な手法の1つになるのではないかと予想しています。僕自身はオンライン実験の専門家ではないので,まだまだわからないことばかりですが,来年もオンライン実験を活用して研究・教育を進めていきたいと思っています。共同研究やトークのご依頼などについても,お気軽にお声がけください。また,オンライン実験はVPS費用やクラウドソーシング費用など,研究費がないとやりにくいのでこちらについても頑張らなければと思います(幸いにも2年くらいは大丈夫そうですが・・・・・・)。

卒業論文提出が年明けなのでそれが終わるまで年越し感は薄いのですが,オンライン実験関係で少しでも日本の心理学研究に貢献できていれば(これからもできれば)いいなぁと感じながら,2020年を振り返りました。

小林 正法
小林 正法
Principal Investigator

関連項目